なびす画廊

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鈴木 範裕展
SUZUKI Norihiro
2004.04.12(月)―04.17(土)

 | 作家コメント |

ここにあつめた作品はどれも最近になって制作したもので麻布と岩絵具の組み合わせによって描かれている。 顔料の粗密によって諧調をあらわす岩絵具は、氷を砕くと白っぽくなるように細かく砕いたものほど淡くなる。そのため緻密な細部描写やなめらかな明暗の再現は極端にむつかしく、展色材として練り合わせる膠は希釈の加減や温度適性に制約がある。膠はかつて煮皮としるしたようにシカやウサギ、ウシなどの皮から抽出した繊維質の硬タンパク質で腐りやすく絵具としての規格化に適さない。その点で、じつは卵をつかうテンペラと似ている。ともに近代化の過程でふるいにおち、それゆえ未知の発展性を内在したまま現在にいたっている。 使用した岩絵具はどれも5、6番の粗目で含蓄に富み、独特のさわりをもつ。ふつう顔料の粒子があらく、隙間をおおくふくむほど、ひびきはそだつ。制作には筆をつかわず、自作した絹弦に岩絵具を染色させ指で弾くことによってひびきあう色彩の線をつくりだすといった手法をとっている。それは慣れしたしんだ絵=筆への問いかけでもある。こうしてカンヴァスに放たれた線は、余白をしずかに息づかせながら水平方向へと緩やかにつらなり揺らぎ崩れてゆく。そこにははじまりもおわりもなく、くりかえしためされる線の織りなしに、描く姿形がみえかくれする。 タイトルの『糸遊』(かぎろい)には陽炎の含意がある。ただいちど、その場であらわれてきえる行為のうつくしさ、それが可能性の空間をひらくことへの関心が、ここではすべてのはじまりにある。


→2009年


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