なびす画廊

nabis gallery
exhibition

artists info

 
 「背後の手前」
  2006、44x91x140cm、樹脂石膏、蜜蝋
  撮影:佐々木悦弘

 
 「背後の手前」2006,21x5x41cm,磁土
 撮影:佐々木悦弘


 

 
「背後の手前」
  2005、30x51x62cm
  樹脂石膏、蜜蝋、油絵具
  撮影:佐々木悦弘

  


大森 博之展
OHMORI Hiroyuki
2006.09.11(月)―09.23(土) ※18(月・祝)休廊

背後の手前あるいは彫刻の閾


 柔らかな粘土の一塊から量塊を立ち上げていくモデリングは、石や木の内部に向かって彫り進むカービングのように材質そのものが彫刻の核として最後まで残るとは限らない。むしろ当初の材質は別のものへと移し替えられて、彫刻として現れるのは一つ前の物質と手が共働して形象化した型である。モデリングによる彫刻の奇妙さは、過去が眼前にある彫刻の表層の現在性に練り込まれ、その表層の背中に不在あるいは空虚を予感させてしまうところである。過去の亡霊が今を纏って存在してしまうことで生まれる非在。
 大森博之は、この奇妙な領域に取り憑かれている。「背後の手前」と題する最近の彫刻(薄く伸びた磁土の表面に光を映し明るい影絵と化した小品、手の記憶と物質の背後から押し寄せる忘却の波間で生まれた襞襞に蜜蝋を塗り込めた石膏の大作)では、この領域の圧縮はより徹底されている。半面を欠き衝立のような正面性によって、つねに背後の見えなさと同時に現れる手前の厚み(奥行き)を彫刻の薄さや浅さによって逆に意識させられるのだ。背後は見えない、背後に触れている物体の表/面側にしか彫刻の像は現れないという自明性と絵画とは異質な彫刻の奥行きを私たちに自覚させるのは、その奥行きをも茶番にしかねない底なしの背後の恐ろしさかもしれない。
 手前においては、眼差し/手と物質が現実の光や空間と戯れ官能に身を開くあるいは媚態めいたものが顕れる。その半開きな事態を背後から空虚がヒタヒタヒタと蓋をしにやってくるあるいは覗きに来るのだ。「虚無への供物」なのか、切られた蜥蜴のしっぽのような彫刻が残る。

→2003年度の個展

→作家略歴/Biography







           
 


 
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