なびす画廊

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「四元素に還る」
2012年、カンヴァスに油彩
162.1x97.0cm(M100)


企画
橋本 倫展
HASHIMOTO Osamu
2012.06.04(月)―06.16(土)
※土曜5時まで、日曜休廊

 大震災の発生により、“アートは無力だ”という言説が巷に溢れた。当然である。自然の前に無力でない人間の営みは無い。アートは、人間のように弱い。
 熱力学の第2法則により、無秩序は必ず秩序に打ち勝る。人は死ぬ。自然に属する生物たるが故に。
 ヒトという複雑な秩序は、「死」というエントロピーの大海に呑み込まれて無秩序に戻る波打ち際の砂山である。死の波には勝てぬ事実こそ、我々の営為の一切が自然の掌中にあることの証明であるが、「死」と呼ばれる無秩序の超克は可能だ。人間は、生物として向かわざるを得ない究極の安定としての無秩序たる「死」を超えて、時間から超出した「永遠」を求める本能を持つからである。
 永遠は、一瞬、ヴィジョンとしてこの世に垣間見えただけで、生物たるヒトの短い一生を肯わせ、宇宙と存在の一切の消滅をも容認させる。それを諦念という。
 誰にも観られず、一度も評価されることの無かった作品が永久に地上から失われても、その作品を通じて、稀に、密かに降臨した永遠は、決して失われることは無い。あらゆる死者が、生者の裡にあって寄り添い、親しく生き続けるように。
 50億年後、我々の棲む星も膨張する太陽の軌道に呑まれて蒸発し、ガス体となって絶対零度の闇へと消える。しかし、宇宙そのものの崩壊後も、永遠だけは残る。永遠の齎すヴィジョンは、「善きもの」である。
 私はこの地上にあって、もう充分に善きものを観た。今、私が描く喜びと共に筆を擱いた画面は、善きもの(の断片のみ)を観る力だけを与えられ、結局はこの齢まで無為に過ごしてしまった怠惰な人間の、無力と無能の呟きにしか過ぎない。

                        2012. 3 橋本 倫
                      




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